失神(しっしん、syncope; シンコピー)とは、大脳皮質全体あるいは脳幹の血流が瞬間的に遮断されることによっておこる一過性の瞬間的な
意識消失発作である。通常は数分で回復し、意識障害などの後遺症を起こすことはない。通常、失神が起こる前に、目の前が真っ暗になる感じや、
めまい感、悪心などがあり、その後顔面蒼白となり、ついに意識が消失する。また、失神の発作は、立っている時に起こることが多い。突然、姿勢維持筋緊張が消失するため
外傷を負うことが多い。
ヒステリーによるものの場合は外傷が見られない場合が多い。
典型的には以下のようなプロセスとなる。脳底動脈支配領域の神経症候が主症候となる。脳の上位部から虚血が起こるので後頭葉障害で眼前暗黒感、上位脳幹網様体障害で意識障害、延髄の前庭脊髄路障害で失立となる。反射性に交感神経が刺激され冷感を同時に感じることが多い。
失神と紛らわしいものに
めまい(特に浮遊性めまい)、
痙攣、
意識障害という症候がある。痙攣との違いは痙攣の場合は失禁や失便が多いのに対して失神ではそれらは稀であること、痙攣の場合は痙攣後意識障害がある場合が多いが失神では見られないこと、また、意識障害や痙攣よりも失神は早期に回復するといった特徴がある。また痙攣の場合は意識消失はするが筋緊張消失せず、逆に特徴的な体動を示す場合が多い。欠神発作というよく似た言葉があるがこれは
てんかんであり失神とは全く関係がない。痙攣ならば代謝性アシドーシスがかなりの頻度でみられるが失神ではまずみられない。いずれにせよ注意深い問診(本人だけでなく目撃者も)によってある程度区別することができる。
大脳皮質全体、あるいは脳幹の血流が瞬間的に遮断されるような病態で失神は起こる。頻度としては殆どが
循環器疾患である。
脳血管障害、特にTIAによるものは非常に稀である。これは
解剖学によって説明ができる。大脳皮質全体の血流を遮断するには脳を灌流する4本の
血管(左右の
内頚動脈と
椎骨動脈)を同時に遮断しなければならない、これは非常に難しい。事実、多くの
格闘技でいわゆる
絞め技でも瞬時に相手を失神させることはできないことから明らかである。例外として
脳底動脈が遮断された場合は失神を起こしえる。失神で特に危険なのは
致死的不整脈、即ち
心室細動や
心室頻拍が一過性に起こった場合である。致死的
不整脈による失神は本当に瞬時に起こるため
受け身をとることができない。そのため
顔面外傷などの合併をみたら念入りに心疾患を探さなければならない。失神の患者を診る場合は必ず失神の原因検索(大抵は
不整脈が原因なのでまずは
心電図、必要なら不整脈の原因となる心疾患を検索する)と
外傷検索を同時に行うことである。特に頭部打撲では
ネックカラーによる固定、必要ならば
JATECプロトコールにて対処を行う。わずかながら存在する脳血管性の失神の場合は失神後、
頭痛や
麻痺などの症状が伴う場合が多い。このような神経学的異常や
頭部外傷を認める場合は頭部CTも施行する価値はあるがルーチンとしては特に必要ではない。失神後
痺れを訴える患者などでは非常に悩ましい。近年、脳ドック普及などのよって微小梗塞が数多く指摘されるようになり、それに伴い痺れを脳梗塞の前駆症状ととらえる人もいる。しかし基本的に痺れはほとんどの場合は
脳血管障害と関係はないとされている。
失神患者は、救急室受診者の3%を占める。一般の市民を対象としたFramingham Studyによると、26年間に失神歴を有した人は、男性3.0%、女性3.5%であった。失神の原因としては2000年代中盤のデータでは反射性(36〜62%)、心原性(10〜30%)、起立性(2〜24%)、脳血管性(1%)とされている。